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01

Dec. 2022

12月号 「お餅に生えたカビ、削ったら残りの部分は食べられる?」

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昔、私の家では、毎年、年末にお餅をつきました。床の間に飾られた鏡餅は、鏡開きまでの約2週間でところどころひび割れて、あちこちにカビが生え、子供心になんとも残念な気持ちになったものです。母が一晩水につけ、カビの部分を削って、ぜんざいを作ってくれました。まだカビの味が残っている部分もありましたが、もったいないので食べました。

 

今思い返すと、結構早く(1週間以内?)お餅にカビが生えました。もち米を蒸して、しっかり加熱して作っているのに、なぜこんなに早くカビが生えたのでしょう。それは、今思うと、つきたての餅を手や台にくっつかないようにするため、餅や手につける餅とり粉にあったように思います。餅とり粉は米粉でつくられていました。米粉は生のコメを粉砕して作られているので、かなりの数のカビの胞子が混じっているのです。ちなみに餅とり粉を片栗粉に変えると、カビ発生は少し緩やかになりました。

 

お餅にどんなカビが生えるのかというと、さまざまな種類のカビが生えます。お餅には炭水化物や糖質、タンパク質、ミネラルも入っていて、カビの発育にはとても適しています。カビがとても生えやすいのです。たとえ、餅とり粉を使わなくても、室内で空気中に浮遊しているカビが落下して生えてきます。

ですから、我が家でも、とうとう、ついたお餅はすぐに冷凍することになりました。

 

さて、本題にもどりましょう。

カビはお餅の表面だけに生えているのではありません。カビにとってお餅は柔らかいので、菌糸をずっと中まで伸ばしているのです。ひび割れがあると、もっと中まで侵攻します。そして、万が一、カビ毒を産生するカビであると、その菌糸からカビ毒を出すのです。カビ毒は一般的に熱に強いので、ぜんざいにして加熱しても失活することはありません。もちろん、ほんの少し食べたからといって、嘔吐したりおなかを壊したりするような急性毒性の強いカビ毒はあまり知られていません。また、カビ毒の濃度はカビの菌体周辺が一番濃いと考えられるため、菌糸を含めカビの生えた部分を削ることにより、カビ毒の量は減少します。

「では、残りの部分は食べても大丈夫ですか。」

そうですねえ、それはやっぱりやめておきましょう。カビ毒はカビを食べなくても日常的に摂取する可能性があり(2022年2月号)、慢性毒性のリスクは少しでも減らしたいものです。

何より大切なのは、食品にカビを生やさないことです。冷凍、真空パック、脱酸素剤などでお餅のカビは制御できます。安全な食品を安心しておいしくいただくことが、なんといっても一番いいですよね。

 

 


 

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執筆者プロフィール

北海道大学獣医学部ご卒業後、旧大阪府立公衆衛生研究所において、女性で初めてとなる副所長兼感染症部長を務められた。現在は、日本防菌防黴学会理事、日本食品微生物学会理事など多方面でご活躍。

 
 


【専門家コラム】

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