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01

Dec. 2021

スペシャリストに学ぶ

桜に魅せられて −桜紀行−

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2021年3月下旬、桜狩りの旅に出た。旅の目的は、2018年に新種として発表された「クマノザクラ(Cerasus kumanoensis T. Katsuki)」に出会うこと。クマノザクラの実物の花を見るため、紀伊半島を南下した。

奈良県上北山村にて待望のクマノザクラと対面することができた。その個体は、花盛りで出迎えてくれた。その頃はちょうどエドヒガンが満開であったことからも、クマノザクラもまた早咲きであることを実感できた。

クマノザクラ

 

さらに南下を続け、道路沿いに植栽された見頃の‘染井吉野’に、さすが桜の代表品種と思い、山の中腹辺りに点々と見える桜色の木々がクマノザクラであろうかと思い馳せながら、目的地の三重県熊野市へ。

道中の景色

 

最終目標としていたクマノザクラには迷うことなく出会えた。満開は過ぎていたが、しっかりと花を観察できた。細く柔らかい枝を持ち合わせるためか、全体像からは優しさが漂っていた。一重で淡いピンク色の花は飽きることなく眺めていられる。特に散り際の花は、中心部と花糸が濃く色づき一段と綺麗に見えた。

一時間ほどじっくり観察して、帰路につこうとした時、クマノザクラの花吹雪が舞い、今回の桜狩りの旅を締めくくってくれた。

三重県のクマノザクラ

気がつけば、桜の名所を訪れたり、名勝の桜や名高い栽培品種の原木を訪ねたりしてきた。なかでも魅了された木々や場所は当然のことながら、くり返し訪問する。私はいつの頃からか桜に惹きつけられて、桜紀行を重ねて来た。
天然記念物級の桜と対峙すれば、その迫力に圧倒され、神秘性や生命力を感じる。栽培品種の原木を訪ねては、人と桜の繋りや歴史を知り、名所に赴けば、いかに人が桜の虜になってきたのかを痛感する。
‘染井吉野’が良い例である。今や日本の桜の8割を占める‘染井吉野’の株数は数百万ともいわれるが、それらがすべて人の手による植栽であることを考えると、いかに日本人が‘染井吉野’に惚れ込んできたかがわかる。しかし近年では多様性の観点から‘染井吉野’に替わる品種の植栽も始められている。

70年近くも前に桜博士の笹部新太郎氏が、日本中が‘染井吉野’一色に染まることを懸念し、各地に残る山桜や里桜の古木や名木を残そうとしていたことには本当に頭が下がる。日本に自生する野生種はわずか10種ほどだが、変種や園芸品種を合わせると300以上とも言われる。笹部氏が大阪市大・植物園のサクラ山の基本設計をしたことはあまり知られていないが、サクラ山に‘染井吉野’がなく、ヤマザクラやオオシマザクラ、エドヒガンなどの野生種と園芸品種がバランス良く配置されているのは笹部氏ならではの美学か。

 

ところでサクラの花の多様性には特に魅力を感じる。一つの花柄から複数の小花柄を伸ばし、その先に花をつける。梅や桃に比べて満開時にボリューム感に満ちているのはこのような花序(花の着き方)のおかげである。また花弁1枚ずつを見ると均一な単色ではなく、微妙に濃淡があるのに気づく。さらに花弁の繊細さも見逃せない。透けるように薄く軽い。桜吹雪は花弁の軽さがあってこそなせる業である。また1花に300枚近い花弁数を誇る‘兼六園菊桜(ケンロクエンキクザクラ)’の花径(花の直径)と一重咲きで1花の花弁数5枚のヤマザクラの花径がほぼ同じであることも面白い。開花から時間の経過と共に花の中心部や葉脈に相当する維管束に沿って、赤味が濃くなって行く様も興味深い。

 

300以上とも言われる桜の中に、桜らしからぬ花色の桜がある。黄色や緑色の花を咲かせる桜だ。これらの品種は、交配による品種改良や偶発実生で作出されたものではなく、桜色の品種から枝変わり突然変異で生じたというから興味深い。江戸時代から記載がある‘鬱金(ウコン)’、‘御衣黄(ギョイコウ)’、1990年代以降に知られるようになった‘須磨浦普賢象(スマウラフゲンゾウ)’、‘園里黄桜(ソノサトキザクラ)’、‘園里緑龍(ソノサトリョクリュウ)’、それに笹部氏が当園に導入した‘新錦(シンニシキ)’の6品種である。変わり色の桜に興味を抱いて以降、桜を観察するときのメニューが増えてしまった。もちろん満開の桜の木を見上げては、枝変わりで花色の変わった枝を探すことである。

 

まだまだ行きたい名所や見たい桜が尽きない中で来シーズンは、今一番魅力を感じている「須磨浦普賢象」を求めて神戸方面を目指したい。


 

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ご執筆:大阪市立大学附属植物園さま

約70年前に大阪市立大学理工学部附属の研究施設として発足し(現在は大学附属)、以来、植物学の基礎研究の対象として多くの植物の収集と保存を行う。なかでも日本産樹木の収集に力を注ぎ、野外で生育可能な約450種を植栽。研究の場であるとともに、自然学習や生涯学習の拠点として広く一般にも公開されている。

 

●大阪市立大学附属植物園公式HP
https://www.sci.osaka-cu.ac.jp/biol/botan/index.html

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